1999年にNHKテレビで「エンデの遺言」が放映されるや、日本でも地域通貨の静かなブームが起こり、「おうみ」(滋賀県草津市)をはじめとする地域通貨のコミュニティが全国各地に誕生しました。 自分にできる奉仕や好きなことをして人に与えること(Give you)、そして必要なものを人から受け取ること(Give me)、この両者が一致したとき、取引が成立します。 値段はふつう提供側が決め、高いとか安とかの感覚はありません。互いに「ありがとう」の気持ちがあるばかりです。そこにはお金よりもまず人と人との出会いがあり、つながりと信頼があります。お金はもはや所蔵するための価値も、投機マネーとしての価値も持たなくなっています。 価値があるとしたら、有形ではなく、人と人の交わされる行為と関係を影法師のように跡づけるためにのみ存在する、いわば無形の価値であり、私達の知っているお金のポジションからグッと後退しているといえましょう。

当時、通貨システムと労働社会に風穴をあけるようなこの発想に触れたときは、とても新鮮に感じられ、私も興味と共感を覚えた一人です。まるでユートピアかおとぎの国のような印象すらありました。神奈川・東京など首都圏を中心に主としてネットにより広まった「レインボーリング」に参加した ことがきっかけで、2001年7月13日の誕生日の翌日の14日に出版社から正式な依頼を受け、お金と人の心にまつわるファンタジックな物語『サラベポポと魔法のコイン』を書き始めることになろうとは、想像もしませんでした。なぜか舞台はアメリカ西部、メサの点在する荒涼とした砂漠地帯、 主人公は13歳の少年になっていました。どんなストーリーになるのか見当もつかないまま、つぎつぎに話が展開し、１ヵ月後の8月13日にお終いまで書き上げました。その後も加筆修正を重ねましたが、書いていると不思議なことに現実に体験することがヒントとなり、物語に織り込まれてゆきました。 しかし、その逆に書かかれたものが現実の出来事を暗示するかのようでもあることに気づきました。9月11日、NYでツインタワービルが目の前で崩壊。人類史上未曾有のショッキングな事件をテレビ画面で見せられたときが、そうでした。それは目には見えない物語の世界において生成された精妙な質の思念が現実化してきたようでもあるし、実際、この地球で暗躍する人間の想念のエネルギーの束が物質化した結果とも思われました。 テロ事件と大メディアで報じられる一方で、まったく異なる真相についての情報がネットで流されましたが、今ではそれが証拠とともに事実としてかなり多くの人々に認識されてもいます。

教育漢字以外にルビを振り、小学校高学年以上から読めるようにしたのも、これからの社会と生活の未来ビジョンを模索し、共有してゆく必要のある若い世代の人にも読んでもらいたいと考えてのことです。 これまでの物質中心の文明が問い直され、新たな文明に移る端境期にあって、この本をお金と人間の心を見直し、考えるヒントとしていただけたらと願っています。